日月神示──岡本天明「改ざん説」に関する私見
※本稿は、10月11日配信の有料メルマガ「飛耳長目」に掲載したものです。
今回は、『 [復刻版] 出口王仁三郎 三千世界大改造の真相』、及び『 [復刻版] 出口王仁三郎 大本裏神業の真相』の発売を記念し、これに関連した話を書いてみたいと思います。
それは、『裏神業の真相』の方で取り上げた「錦之宮」にまつわることです。
岡本天明さんが晩年を過ごした三重県の菰野町は、元大本信徒であった辻天水の郷里であり、天水は当時、王仁三郎の命を受ける形で、この地に戻ってきていました。
そこに数霊学者の武智時三郎と岡本天明が移り住むこととなり、三人でいわゆる「北伊勢神業」が行われたのです。
その経緯については同著の中で詳しく説明していますので、ここでは省略します。
今回、書いておきたいと思ったのは、『玉響』本年6月号の中で、内記正時さんも触れておられる「日月神示は改竄(かいざん)されていた?」という話に関してです。
なぜこういう説が浮上したかというと、それは1994年に上梓された『龍宮神示』(継承の道)という本の中に、以下のようなエピソードが載っているからです。
内記さんも引用されていますが、以下に同じ箇所を引いてみます。
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そんな或る日、例の天明の日月神示に目を通していた天水がじっと考え込む様な表情で、武智の前に座っていた。
「武智はん、私は『日月神示』を二回繰り返し読んでみたがおかしいな、神様こんな事を云われる筈がない」
天水の疑問に呼応する様にどこの箇所と武智が尋ね返すと、こことここと返答した天水の発言に武智もしばらく腕を組みながら頷いた。
「そうか、そうか。わしもそのように思ふ」
武智は早速天明を呼び寄せて、事の真相を尋ねた。
「お前、これほんまに神様が降ろしたんか?」
師匠の気迫のある声に押される、天明は平頭した。
「すんません。わしの意志だったように思います」
武智は「そうか」と言っただけで、次の言葉がなかった。
「なんでこのようなものを書いたんや。自分が偉くなったからか?」
「申し訳ありません」
ただひたすらに詫びる天明の姿に、天水は天明の生き方が何であるのかを感じ取っていた。
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以上の箇所です。
『大本裏神業の真相』でも書いていますように、「継承の道」版の『龍宮神示』を私も所有していますし、参考文献にも挙げています。
しかし、同書の上のエピソードについては、私の本にはあえて載せませんでした。
「継承の道」版の『龍宮神示』は、自費出版で作られたものとみえ、小部数を刷られただけに留まったようです。
1995年、月海黄樹という人が徳間書店から『龍宮神示』という同名のタイトルで本を出したことで、その存在が広く知れ渡りました。
その中に、上のエピソードがそのまま引用されていたため、これを目にした「アンチ日月神示」派が、鬼の首を取ったかのように騒ぎ始めたのです。
ほらみろ、日月神示なんて岡本天明による創作だ、ニセ神示だと。
私が錦之宮を初めて訪れたのは、ちょうど月海黄樹さんの『龍宮神示』が出版されたばかりの頃でした。
辻天水さんはもうとっくに他界されていましたが、奥様の辻登美古さんはご存命でいらっしゃったので、取材がてら直接お話を伺いに行ったのです。
錦之宮は、岡本三典さん(天明氏夫人)のお住まいの至恩郷から、それほど離れていないところにありました。
錦之宮を訪れますと、登美古さんはなぜか不機嫌そうな表情をしておられました。
それは私に対してというより、手元に置かれていた月海黄樹さんの『龍宮神示』に向けられたものでした。
「錦之宮に無断で、勝手にこんな本を出された」と怒っておられたのです。
版元も、無断で出すわけはないと思いますが、登美古さんは、そう思っていたようです。
また、表紙にある辻家の家紋(丸に十字のマーク)を指して、
「こんなふうに断りもなく家紋を表紙に使いよった。世が世なら打ち首じゃ!」
と、エラい剣幕でした。
どうやら私を著者の月海黄樹さん(月海さんは女性ですが)か、出版社の人間と勘違いされていたようです。
錦之宮の方々が取りなしてくださったため、私がこの本とは無関係であることはおわかり頂けたようで、その後は和やかに話し合いが持たれることとなりました。
『裏神業の真相』を書き下ろすにあたり、錦之宮には二度ほど訪れることになり、いろいろ資料を頂くなど、ご協力を頂いたものです。
ただその過程で知ったことが、いくつかあります。
まず、辻登美古さんが非常に気難しい方であっただけでなく、今で言う認知症を患っていたのではないかということです。
また、錦之宮の辻登美古さんと至恩郷の岡本三典さんとは、いわば犬猿の仲でした。
まあ、三典さんの方はそれほどでもなかったのですが、登美古さんの方は、もはや取り付く島もないという感じでした。
取材には訪れましたが、ほとんど周囲の人が話していて、登美古さんは、はたしてどこまで今の状況を認識しているのか?という印象でした。
そのように自分で実際に見聞きしたことをふまえますと、「継承の道」版『龍宮神示』に収録されている上記のエピソードは、いったい何を根拠としてこのように書かれたのかという疑問が沸いてきます。
おそらくは、登美古さんが主観的に語った内容に基づいているのではないかと推測されますが、そうなりますと、ますますこのような会話が三人の間で実際にあったのか、あったとして、どこまで正確なのか、まったく不明ということになります。
当然、この会話が録音された音声データがあるわけではないですし、錦之宮とは別のところに同様な証言が存在するわけでもありません。
あくまで登美古さんかどなたかが話したことが活字になっているだけです。
そんなような話があったかもしれないし、なかったかもしれないのです。
安易に引用すれば、日月神示の改竄説につながる重大な内容とも受け止められかねませんので、私はここの部分については取り上げませんでした。
天水が「神様がこんなことを言われるはずがない」と言って武智に指し示した箇所というのが、具体的にどこかということも、書いてありません。
私も、日月神示には全編にわたりいっさい岡本天明さんの潜在意識が入り込む余地はなかったとは考えておりませんので、入っていたとしても別に驚くようなことではありません。
私は、あくまで日月神示のみを切り離して信奉するのではなく、霊脈として俯瞰的に見ることで真実が見えてくるのではないか、という立場でずっと来ています。
そういう立場を取る一研究者から言わせて頂けば、こんな程度で日月神示が岡本天明さんによる創作か、改竄されたものだと断定するには、あまりにも根拠が薄弱であるということです。
ところで皆さん、DVD『日月神示 完全マスター基礎講座』をご覧頂けましたでしょうか。
この講座を実際に聴講された方もいらっしゃると思いますが、その第一回目に、岡本天明さんに降り始めていた神示をすらすらと解読した、矢野シンさんご本人の肉声証言が出てきます。
音声として録音されたものをそのまま披露していますが、こういうものでしたら「証拠」として採用できるわけです。
ちなみに、矢野シンさんが語るこのエピソードは、『三千世界大改造の真相』に収録されていますが、これを読まれますと、私がこの証言に忠実に、何も足したり引いたりせず、この内容のまま掲載していることがおわかり頂けるでしょう。
日月神示が「日の出の神の延長である」とあるが、本当に矢野シンがそう言ったのか、証拠があるなら見せてみろ!と言われた場合に、「はい、ここにあります」と出せるように、私はこの録音テープを大事に保管しておいたのです。
誤解のないように申し添えれば、私は錦之宮の「神示群」につきましては、神の経綸を解明する上で無視できない重要な資料と思っています。
DVDの第5回目でも、錦之宮神示群の一つである『神言書』に描かれた「大峠の様相」について紹介し、解説しております。
ある意味、『大本裏神業の真相』は、錦之宮を世に出すために書かれたものとも言えるのですが、この本が制作された当初は、錦之宮とも良好な関係であったものの、刊行された直後から、ある揉め事が生じてしまい、以来、縁が切れてしまったのです。
〜中略〜
一方の至恩郷も、岡本三典さんが2009年に帰幽されたことで、閉鎖してしまいました。
残念なことですが、辻天水、武智時三郎、岡本天明の三人が神業に励んだ菰野には、もう何も残っていないのです。
経綸上の役割を終えたということなのかもしれません。